久しぶりに松濤美術館へ。
「杉本博司 本歌取り 東下り」を見てきました。
私が氏の作品を初めて見たのは、直島で見た『海景』シリーズです。
10年以上前に妻と訪れたのですが、水平線と海を写したその力強さに衝撃を受けたのを覚えています。
今回の展覧会の趣旨は
杉本博司(1948~)は、和歌の伝統技法「本歌取り」を日本文化の本質的営みと捉え自身の作品制作に援用し、2022年に姫路市立美術館でこのコンセプトのもとに「本歌取り」展として作品を集結させました。
(松濤美術館HPより抜粋)
本歌取りとは、本来、和歌の作成技法のひとつで、有名な古歌(本歌)の一部を意識的に自作に取り入れ、そのうえに新たな時代精神やオリジナリティを加味して歌を作る手法のことです。作者は本歌と向き合い、理解を深めたうえで、本歌取りの決まりごとの中で本歌と比肩する、あるいはそれを超える歌を作ることが求められます。西国の姫路で始まった杉本の本歌取り展は、今回、東国である東京の地で新たな展開を迎えることから、「本歌取り 東下り」と題されました。
とのことです。
展示作品は、新作の「富士山図屏風 」(葛飾北斎の「冨嶽三十六景 凱風快晴 」が本歌)もあれば、11月に上演される狂言の本歌である室町時代の「法師物語絵巻 」、旧石器時代の尖頭器 などと幅広く、文化に対する知見の深さが溢れ出ていました。
どれも氏の美意識や考えが反映されたもので、写真、絵画、建築、舞台、言葉・・・など文化に対する洞察力の深さは素晴らしいの一言。
しかもそこはかとないユーモアも感じさせます。
そして、メインテーマである「本歌取り」は、建築の設計にも通じるところがあると思います。
建築(住宅)の設計では、住みやすさや快適性以外にも設計者それぞれが大切にしているテーマがあって、私たちの場合は『緑と暮らす』ですが、新しい何かを生み出せないか、より良い家にできないかと常に考えています。
また、その姿勢の根本にはこれまでの先達たちの先例を無意識に意識しています。
『これまで先達達が築いてきた「山」をさらに高くしようとしている』という感じでしょうか。
その山を高くするのは容易ではありませんが、杉本さんが凄いのは、作品はもとより「本歌取り」と題してご自身の姿勢として表明してしまうところかもしれません。
オリジナルを敢えて表明し超えていく姿勢を世に問うのは、誰にでもできることではないと思いますし、元の山を高くするどころか、新しくより高い山を築こうとしているのだと感じます。
白井晟一の書も展示されていましたが、晩年に設計した邸宅『桂花の舎』が、江之浦測候所に移築されるようです。これも本歌取りとのこと。
どのような姿になるのか楽しみです。